――知らない。
――遅れてるー!あのね、幽霊と3秒間キスしたらねえ、その人も幽霊になっちゃって、つれていかれるんだって!
――はいはい。
――ちょっと・・・ほづみ、聞いてるの?
なんで、今私が体育館裏なんかにいるかというと。
確かに、最近退屈でさ。
何か変わったことないかなぁ、なんて思ってた。
思ってたわよ。でも、さすがに、
"放課後 体育館裏までこられたし"
なんていう下校時に見つけた机の中のこんな手紙には度肝抜かれた。
そりゃ今の今まで気づかなかった私も私だけどさ。
名前もないし、これって・・・
――――――――――――果たし状よね。
こ、こんな変わったことなんて、いらないわよ――――――――!
***
| まぁ、無視するのも後が怖いしさ。 その足で体育館裏に行って、今にいたる、ってこと。 身に覚えも無いけど、やっぱ気になるし。 このまま帰ったらねらんないわよ。もう。 でも、そうっと、覗いてみると。 そこに居たのは、私が想像してたような怖いお姉さま方ではなくて。 一人の男の子だった。 ストレートの黒髪。黒目がちの瞳。 多分、一年かな? 一つ年下だけど、うーん。 結構好み。 ――――――――違う違う。 そんなこと言ってるときじゃない。 他に人が居ないところを見ると、多分あの手紙はあの子だ。 ―――――――っって、 げ。 気づかれたよ・・・。 その子は私の顔を見て、少し驚いた。 「来てくれたの?」 そりゃ・・・呼んだのあんたでしょうが。 無言で肯定をあらわすと、その男の子はやたら嬉しそうな顔をした。 「・・・なんの用なのよ」 そういうと、その子は、変な表情をした。 ・・・表情が良く変わる子だ。 それが第一印象だった。 「わかんない?それ、ラブレターなんだけど」 「はぁ!?」 思わず私ははしたなく声をあげてしまった。 だって少なからずも私はそんな、告白なんてされるタイプじゃない。 ちびだし、色も焼けてるほうで、小柄。 「あんた・・・冗談やめてよね。私これでも結構忙しいのよ」 「なんで。本気ッすよ」 「見えないわよ」 「えー」 今度は考え込む。 なんか、ちょっとかわいい。 なんて、油断したのが間違いだった。 「じゃぁ、こうしたら判ってくれる?」 |
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「―――――?」
――――――――――
―――――――ッ!
「ぎゃぁぁぁぁぁっ!」
「色気ねぇ叫び・・・」
だ、だって、だ、この人今私を抱きしめてる!!
自慢じゃないけどこういうことに私はぜんぜん免疫ないの!
そ、そうじゃなくて、だからっ、こいつがっ、ひ、
非常識!
「は、離してよ!」
案外そいつはすぐに腕をはずしてくれて、私はすぐに離れた。
「ば、ばかぁ!」
くやしくて、恥ずかしくて、私はその場から逃げ出した。
あんなやつ、だいっ嫌いだ!
いたずらなんだ。最悪!
だから、そいつの言葉も、耳には入らなかった。
「・・・明日から通い詰め作戦かな。平安時代じゃないけど」
そうだ。あたしは私はそいつの名前も聞いてなかった。
そのことはあとから思い出したんだけど、結局次の日は嫌でもそれを聞く羽目になる。
「僕のこと。好きになってもらいますよ。三木ほづみさん」
それから私の受難の日々が始まった。
***
3日も経てば顔はやつれ、
5日も経てば我慢できない。
「い――――加減にしてよっっこのくそばかぁー―――――っ!」
そんな暴言を吐くのも、全部こいつ・・・
相田 葉月のせい。
「あんたね、休み時間ごとにくんの止めてくんないここ上級生のクラスなのよ私先輩なのよあんたそれ判ってんのぉ――!?」
「全っ然。」
にこにこ笑っているこいつに、何を言っても聞かないなんて事はわかっているけど、
つい、ね。
「もういい。わかった。わかったから、おねがいつきまとわないで」
「無理。」
も、もういや。
こんなことが毎日繰り返されれば、私でなくても疲れるわ。
「何で判ってくんないかな、三木先輩。こーんな本気なのに」
「だって、そう見えないのよどうしても」
そんな不毛な言い争いに終止符を打ってくれたのは、次の始業チャイム。
ありがとう、始業チャイム。
相田くんは名残惜しそうに、
「あ、鳴った。じゃぁね先輩またあとで」
「来んでいい、もう」
「大変ね、なんだか」
私の友人、森本理香が話し掛けてきた。
「そうよ。もううんざり」
ちょっとでもいいかもなんて思った自分が恨めしい。
「毎時間愛を伝えに・・・い〜じゃないの、平安貴族みたいでさ」
「判ってないわね、ありゃただの騒音公害よ」
「言いすぎ」
「かもね」
自分でもやさぐれたかなぁ、なんて思ってんのよ。
これでもね。
「結構満更でもなさそうに見えるんだけどな」
「なにっ!?」
「なんでもない」
確かに日常生活嫌なこともあっていらいらしたりするよ。
そんな時のあいつは気がまぎれて役に立たないこともないよ。
あいつ明るいし。
でも、だ、断じて、
あいつなんて好きじゃないっ!
さっきから、理香は何か考え込んでいる。 「どしたの」 「ん。でもあの子なんか見たことあるような気がして」 「そりゃ同じ学校だし」 「そういう意味じゃないわよ」 「?」 そしてうーん、とひとしきり唸ってから、理香は、 「よし、おっけ。じゃぁ・・・・・・ この理香様がほづみの未来の彼氏さんのことを調べてあげましょう!徹底的にね!」 「な、なによ!いらないわよ!彼氏なんて!」 「ばっかね」 理香はぐいっっと顔を近づけてきて、私はのけぞった。 「あんたみたいに洒落っ気もない、 流行りのアクセよりも今日の夕飯の献立のほうに興味があるような女に春が近づいてんのよ。 いいね、ほづみ。のがすんじゃないよ。明日になったら全ての情報オールゲッチュしてあんたに報告するから」 そんな理香の剣幕が怖くて、私はうなずくしかなかった・・・。 |
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***
今日は私が日直だ。教室に残るのも別に嫌じゃないし、
別に日誌書くぐらい嫌いでもなんでもないけど、
そばにこいつが居るとなれば話は別。
憂鬱そのものだ。
「先輩。字、綺麗ですね」
「そうかな」
「そういうとこも好きですよ」
まただ。「好き好き」って、もう何回聞いても信用できない。
私はペンを置いた。
「だから。あんたが言うのが本当なら、私のどこが好きだって言うのよ!」
「・・・・・・優しいとこ」
やたら素直に相田くんは答えた。
初めて聞く言葉で私は驚いた。
あ。私が聞かなかったのか。
「え?」
顔を見たら、いつにもなくまじめな顔で、とても優しい、年上のような笑顔で、
私は、
―――――――――私は。
「そ、そんな、優しい人なんて、ごろごろ居るじゃない」
「・・・教科書を人前でぶちまけたそんな恥ずかしいやつに、嫌な顔一つせずに拾ってくれるようなところ」
えっ。
まじまじと私は相田くんを見た。
すると、柄にもなく顔を赤らめた。
「え、そのこれは・・」
「やだ、あれ相田くん見てたんだ」
「え?」
そう、私はある日、3年の人がばらまいてしまった教科書類を拾うのを手伝ったときがある。
すごい周りに人が居て、なのに手伝ったのは私だけだった。
小さくありがとう、って言ったその人の感じが、なぜかあたたかく感じて、
私はその人のことを結構印象に残していた。
「そ、そう見てたんだ。少し遠いところから」
「そうなんだ・・・」
「う、うん。・・・・・・危ね―・・・忘れてた・・・」
「なに?聞こえないわよ。何を忘れて危ないの?」
「いや、な、なんでもない」
その慌てようがどうも怪しかった。
「そ、その先輩の事・・・覚えてたんだ」
「うん、感じよかったし・・・」
そこまで言って、
私は固まってしまった。
目の前の、とろけそうなほど嬉しそうな顔・・・。
「な、なによ」
反則よ、反則。
ドキッとしたのだって、驚いたからなんだから。
「な、なんでもないんだってば・・・ねぇ、『幽霊のキス』の噂、知ってます?」
相田くんは、そこで急に話題を変えた。
もしかして照れたんだろうか。
この人は、本当に私を好きなんだろうか。
――――――――嬉しい、
って、違う!嬉しいって何!?何も思ってない!い、今の取り消し!
「う、噂?し、知らない・・・」
でもないか。前に理香が話してた様な気がする。
でもほとんど興味がなくて、内容は覚えてないのだ。
「幽霊と3秒間キスすると、その人も幽霊になるんだって」
「へぇ」
変な噂。
「信じる?」
「え?いや・・・信じるも何も、私幽霊の存在信じてないし・・・思い残したことがない人間なんて、いないって思ってるし」
「あはは」
相田くんは吹き出した。
「なによ」
「先輩・・・僕と同じ事考えてる」
「へぇ」
ちょっと意外だった。一年中頭が春な奴と思っていただけに、
リアリストだといわれる私と同じ意見になったのが珍しかった。
「僕も、幽霊なんていないって思ってたよ。・・・・・じゃぁ、三木先輩、僕はこれで」
「帰るの?」
「えぇ」
何でこんなことを言ったのか。
私は今でも判らない。
でも立ち上がった彼に、
つい私は聞いてしまった。
「・・・私の返事、聞かないの?」
あ、
あぁ〜もう、私は何を聞いてるの!?
相田くんは、少し驚いたような表情をして、でもすぐに笑って、
「…もういいんです。それは」
本日2回目の大人びた笑顔は、なぜか胸が苦しかった。
私はあいつが出て行ったドアをにらみつけた。
「もういいって・・・なにそれ」
変な奴。
ほんっと、変な奴。
***
ちょうど入れ替わるように、理香が入ってきた。
「・・・理香」
「ほづみっ!あぁ良かった。まだ居たのね」
「どうしたのよ、そんなに急いでさ」
理香ははぁはぁ息切れしている。
「あ、相田くんは?」
「今帰った」
「…そう。あの子のことなんだけどね。言っておいたほうがいいと思って」
「なによ」
こいつはもう情報を集めてきたんだろうか。
理香は私の前の席・・・しかも机に腰をかけて、すっと息を吸った。
「あの子、相田葉月なんて名前じゃないわ。『石塚敬一』のはずよ」
「・・・は?」
あんまり急だったので、私はその言葉がすぐに飲み込めなかった。
「『相田くん』は1−Bよね」
「えぇ」
「1−Bには私のクラブの後輩が居るの。クラス写真も見せてもらったから間違いじゃないと思う。
その子が言うには、『相田君』は『石塚君』で、しかもその『石塚君』は、無表情、無感情、無愛想3拍子そろってて、
あだなはサイボーグ石塚、だってさ」
「・・・」
『相田くん』は存在しない?
あのいつもにこにこしてるあいつが、サイボーグ石塚?
信じられない。
「『相田くん』、誕生日8月って言ってたよね。だから葉月なんだって言ってたよね」
「うん」
「『石塚くん』ね。誕生日、12月なんだって」
そんな言葉はもう私の耳には入らなかった。
嫌な予感がした。
言葉が、頭を駆け巡る。
ジグソーパズルが、はまっていく。
もしかしたら。
もしかしたら。
『人前で教科書をぶちまけた・・・』
『忘れてた・・・危ねー』
『な、なんでもない』
『幽霊なんて居ないって思ってたよ』
「ねぇ、理香」
「え?」
「幽霊のキスの噂、知ってる?」
「は?何よ、突然。知ってるも何も、それ私が教えた奴じゃない。学校中で有名よ、それ」
「私・・・・・・ごめん、帰る」
「ほづみ!?」
***
もう間に合わないかもしれない。
だから、走った。
走って走って、追いついたときは、急には止まれなくて、その背中にドンっとぶつかってしまった。
「―――うわっ!」
「・・・・・・」
「・・・み、三木先輩?どうしたんですか」
ねぇ。
教えて。
「あなたは・・・『誰』なの?」
相田くんは、息を飲んだ。
そして、ふっと笑ってこういった。
「判っちゃったのか。三木さん」
「…」
「僕は・・・『相田葉月』だよ。教科書を君に拾ってもらった」
私は何も言わなかった。
相田くんは続けていった。
「僕はこの前、事故で死んだんだ。
でも思い残したこといっぱいあってさ。
ひときわでっかいのが、『君ともっと話したかった』それだけは叶えたかったんだ。
そしたら、いつのまにか、この石塚・・・サイボーグ石塚で有名だったから知ってるんだけど。
こいつの中に入ってたんだ。
正直言って嬉しかった。人格壊すのは悪いと思ったけど、
ハイになってさ、どうせならこのまま君に近づいてしまおう、と思った」
私は何も・・・いえなかった。
「くやしかった・・・葬列に君が居ないことが。だから、連れて行ってしまおうって思った。
3秒間のキスをして」
「なんで・・・やらないの?どうして、もういいなんていったの?」
やっと声を出せた。
「君が、僕を覚えていたから」
私は息を飲んだ。
「僕は一人で行くよ。つれていくのは、やめた」
相田くん・・・いや、『石塚くん』の輪郭が、少しぼやけてきた。光がにじんで、
それが、とてもかなしかった。
「・・・行っちゃうの?」
「うん」
「いや」
相田くんは笑った。
そう、なんとなく嫌だった。
そんなこと無理だってわかってるけど、そばにいてほしい、ただそれだけ。
相田くんは、微笑みながら、こう言った。
「ねぇ、『幽霊のキス』の噂、・・・試してみる?」
私の能がその言葉を理解するより前に、
私は唇をふさがれていた。
1。 2。 3秒経つか経たないかぐらいで、相田くんは離れる。 私は、見た。 『石塚くん』でない、『相田くん』を。 光が強くなる。 声が聞こえる。 「・・・2.9秒で・・・・・・許してあげるよ、ほづみ」 それは、 確かにあの時の・・・あなた。 |
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そして光は、消えてしまった。
あまり覚えてないけれど、私はその後でずるずると石塚くんの身体を引きずって、彼の教室に運んだ。
ただ、顔だけはみないようにした。
辛いから。
そのあとで理香が来た。
また性懲りもなく息を切らして、私を探してたらしい。
でも、私を見つけても、何も言わなかった。
多分私が泣いてたからだと思う。
肩を優しくたたかれて、また涙が出た。
好きだった?
うん、多分好きだったな。
あの野郎、聞かずに行っちゃった・・・馬鹿。
***
しばらく私は、なるべく石塚くんには会わないように行動をした。 なにせ顔を見るのはまだ抵抗がある。 でも。こういうときに限って会ってしまうものなんだ。嫌になる。 ほら。 今もそう。 いつもは何も言わずに通り過ぎるだけなのに、 今日はなぜか呼び止められて、驚いた。 「なぁ、あんた」 「・・・・・・なに?」 表情は・・・さすがサイボーグ石塚。仏頂面だ。 でも、その方がいい。その方が救われる。 全然違うから。 「話したこともないのにこんな言い方変かもしれないけど、 いや・・・あることになるのか?最近あんた、俺を無視してないか?」 やっぱりばれてたか・・・ 「そう・・・?」 「…俺が階段から落ちて、それからしばらくの記憶がないのと、何か関係あるのか? 記憶がないのに…友達は俺が学校に来てたって言うし…それに、」 「階段から落ちて・・・記憶、ないの?」 「え?・・・あぁ」 私は少し考えた。 これは偶然? それとも、必然? ふっと微笑みがこぼれた。 そう、そんなことはどうでもいい。 「・・・"それに"、なに?」 「え?」 「続き」 |
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石塚くんは少し顔を赤らめた。
眉を寄せて、目をそらす。
石塚くんは、こう照れるんだ・・・。
「・・・俺は人が変わったように、ある先輩を追いかけていたらしい。
三木先輩・・・あんたを」
『三木先輩』
「お、おい、何で泣くんだよ!俺、あんたに何かしたのか?」
涙を拭いた。
涙の理由は…わからなかった。
ただ、胸の中が、暖かくなったから、
そうとしか思えなかった。
あわてる石塚くんを見て、悪戯心が湧いてきた。
にっと笑っていってやる。
「あなたはなにもしてないわよ。」
「え?」
「記憶のない間のあなたのこと。知りたい?」
ちょっと迷って、石塚君はうなづいた。
「じゃぁね、まずね。『幽霊のキス』の噂、聞いたことある?」
ただの噂話。
幽霊の、3秒間のキスの噂。
私とキスしたことがあると聞いたら、あなたはまた照れるかな?
2.9秒のキスで、好きな人と一緒に行きそこねた女の子の話、
聞いてくれる?
追伸 幽霊さま、あなたの宿主もあなたと同じように、ただの照れ屋の少年でした。
-Fin. -



