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波乱の幕開けは、クリスマスが近づいてきたまさにある日のことだった。
昼休み。
「知ってる??志藤ってば、とうとう彼女できたらしいよー!」
「うっそー!あのバカが彼女!?さすがイヨ、情報早いよねー」
「すぐ別れるのにシホ一票!」
「バッカね、あーゆーのに限って長続きすんのよー!」
教室の中はクリスマス一色。
噂好きの女の子たちは、惚れたハレタでおおはしゃぎだった。
引き金をひいたのはクラスメイトの一人、フミだ。
「ねー理香は?今年のクリスマス、何して過ごすの?」
その一言に、少し離れたところに居る和泉の耳が無意識にダンボになる。
理香は突然話を振られて、フミの方を振り返る。
「へ?そりゃーもちろん、今年も寂しいモン同士、ほづみ・・・と・・・・・・」
そう言いかけて、理香は固まる。
一瞬その場の空気も固まった。
「りか・・・?」
理香の肩ががたがたがたがたと震える。
ゆっくりと右手と左手をもちあげ、ゆっくりと頭を抱え込み、
そこからはコンマ1秒だ。
「っあ゛ぁ゛―――――!!!!」
震度1.5は記録したらしい。
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なんちゅー声や。
頭がくらっとした。
そんな中、俺は背中に不穏な気配を察する。
――――が、遅かった。
「せーおぉー」
「っひ!な、なんやお前!!!」
「うっかりしてたわこの私が!ほづみは石塚というか・れ・しを作っちゃったじゃないのよ!」
振り向くと森本理香が必死の形相で俺の制服のすそをわしづかみにしていた。
その手を振り払うこともできず、「で?」とだけ返した。
すると森本はぱっと手を離し、自分の腰にあてる。
相変わらずちゃかちゃかと動くヤツや。
「で、よ。あんた今年のクリスマスはヒマ?」
一瞬ぴきーんと俺の世界が固まった。
なにをたくらんでる、森本理香?
「ん・・・なわけないやろ、モテモテ和泉様やで?」
と出方を見てみることにした。
「あっそ」
あっさりと背中を向ける森本のセーラーの襟を慌ててつかんだ。
そこでやめられたら気になるし。
「うそや。ヒマ!」
にーっこり。
そんな擬音が起きるくらいの笑顔で、森本は振り返る。
かすかに心拍数があがる。
この森本から、まさかデートの誘いか、と緊張が走り、手がセーラーから落ちた。
「ちょっとあんた、私につきあいなさい」
「・・・・・・・・・・・・は?」
+++++
――こんなことやろと思った。
クリスマス。
俺は駅前の時計台にもたれ、約1分遅刻の森本を待っていた。
おせっかいなあの森本は、あいつの親友三木ほづみちゃんの初デートの具合を偵察する、と意気込んでいるのだ。
まったく。なんで俺が・・・・・・。
これのせいで、引く手あまたのはずの俺は、せっかくの女の子からの誘いを全て断ってしまった。
その理由は・・・・・・わからない。
「やっほー。待った?」
その声にせめて文句を言ってやろうと思って勢いよく振り返った。
で、固まった。
「なんやお前・・・その格好」
森本は、ふわっとした素材の白いセーターを着て、
割とシックな色合いの赤と緑のチェックのスカートをはいていた。
靴はファーの着いたブーツ。
じゃなくて。
重要なのはいつもふたつくくりにしている髪をおろし、ニット帽をかぶり、黒淵のメガネをかけていたことで。
そしてその顔がいきなり近づいた。
「なんやってねぇあんた変装にきまってんじゃない偵察なのよ偵察、
で何よあんたこそその格好はーその金髪はどうやっても目立つでしょ、
偵察なの変装義務があるの目立っちゃだめなのよーーー!!」
とか言いながら、自分がかぶっていたニット帽を俺の頭にがぼっとかぶせ、
どこからかサングラスを取り出してかけさせた。
「よし」
文句を言ってやりたいと思ったのに、口が何故か開かへん。
多分髪を下ろしてるところをはじめてみて、びっくりしたからやと思う。
・・・って、なんでやねん。
「よっしゃ!いくわよ!」
「・・・・・・」
そして森本にほぼ引きずられる形で、俺のクリスマスは始まった。
+++++
ジングルベルやら、赤鼻のトナカイやら、かわいらしい音楽がそこら中で鳴っている。
イルミネーションの光が街にあふれる。
冬がつれてくる日没というのはほんまに早い。
まだ5時だっていうのに、あたりはオレンジ色に染まっていた。
喫茶店。
偵察対象の三木ほづみと石塚敬一は、メニューを手にしながらがっちがちに固まっている。
俺と森本はしっかり、ちょうど真横の、植木で影になって見えない席で観察中。
「見たとこあれはメニューなんて見えてないわね!さっきからページが変わってないわ!」
「てかなんでお前があいつらの待ち合わせ場所とか知ってんねん」
双眼鏡(もどき)を目から外して、森本はちっちっち、と指を横に振る。
「あんた、まだ私のすごさを理解してないようね」
「どういう意味や」
「こころよくほづみが教えてくれたわ。なんか『絶対来ないでよ!』とか言ってたけど」
「無理やり聞いたんかい」
まったく森本は人の話を聞かない。
ほづみちゃんは、ピンクのパーカーにクリーム色のフレアスカート。
なんでパーカーなんて色気の無いものを!と怒っている。
「あっほづみが動いた!!」
森本が器用に小声で叫んだので、伏せ気味になって声に耳を澄ませた。
こういうのに付き合ってる俺も、かなり付き合いがいいんちゃうかと思う。
「わ・・・私パフェにしよっかな。敬一くん、何にする?」
「・・・・・・」
石塚敬一はまだ迷っているらしい。
「・・・・・・どしたの?好きなもの、その中にない?」
少し不安げな空気をほづみちゃんのその声から察したのか、今度はすぐに返事が返ってくる。
「いや・・・ある」
「どれどれ?」
石塚が迷った末指差したのはプリン・ア・ラ・モード。
「プリン好きなの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あぁ」
ぶっ。
プリン!?
あの、『コーヒーはブラックで。』もしくは『無糖派です。』の標語が似合いそうな顔して、
プリン・ア・ラ・モード?
正面を見ると、森本は必死で口を両手で押さえている。
その努力は賞賛に値するわ。
が、しかしやはりほづみちゃんはすごい。
うなづいて、アバタもエクボというものか、しゃきしゃき店員を呼んだ。
にしゃ、と笑って石塚の顔を覗き込む。
「照れてるでしょ」
「・・・うるせぇ」
「今度作ってきたら食べてくれる?」
「・・・・・・」
微かにうなずいたのを見て、ほづみちゃんは笑った。
うーん、ちっさいのになかなか侮られへん。
森本はまだ爆笑をがまんしている。
ゲラらしい。
店員が『ご注文は?』と聞いてきたのに対し、息も絶え絶え「水でいい」とのたまいやがった。
「いや、コーヒーふたつで」
あせって、俺がきっちり訂正してやる。
「かしこまりましたー」
ほら、口調は丁寧やけどめっさ胡散臭そうな顔してるやんか、あの店員!
そんで、かの石塚敬一は、しっかりコーヒーにも砂糖3杯、そしてミルクを入れ、
プリンを口に含んだ。
うえ。あま。
自然と俺と森本、そしてほづみちゃんの視線がその口元に注がれた。
それにしても。
「・・・あいつ無表情に食いよるな」
「いや、ちょっと待って、そうでもなさそう」
森本が指で石塚の顔を指差す。
俺はちょっと顎が外れそうになった。
微かに、でも確かに石塚の表情が幸せそうにほころんでるやんか!
真ん前に座るほづみちゃんはしっかりと見ていたらしい。
慌てて下を向き、パフェのアイスを口に運んだ。
おー、照れとる・・・。
「あ、おいしい・・・」
「・・・そうだな」
がちがちの空気が、パフェとプリンで少し和らいだ気がした。
「・・・なんかいい雰囲気やな」
俺がそう言うと、森本は、無言でうなづいた。
*****
「次は映画?ベタにも程があるわ・・・・・・」
「おい、映画館までついていく気か!?」
「あたりまえでしょー!石塚敬一がヘンな真似しようもんならこーのー理香様がっ、許さないのよっ!!」
ため息が出た。
―そんな真似、あいつができるわけないやん。
映画館で、ほづみちゃんと石塚が見るらしいのは、今話題の超がつくほど切ない純愛物語。
その名も「29章目のキス」。
森本は露骨にいやそうな顔をした。
「うぇ。どっちが選んだのよこれ。もっとマシなのあるでしょー」
そしてきょろきょろして映画のポスターを見渡した。
そんで一点で目を留めたのでそっちを見ると、
なんとも森本の好きそうな爽快アクションモノの映画ポスターだった。
「おい、券買うんやろ」
めずらしく森本がうだうだしているから、俺は声をかけて森本を呼んだ。
頷いてこっちに歩き出した森本は、それでもアクション映画の方が気になるらしく、
ちらちらとそっちばかり見ていた。
「・・・・・・」
「・・・・・・なぁ。俺、こっちの方が見たいわ」
それはちょっとした気まぐれやった。
俺も、こいつと純愛映画を見るっていうのも変な気がしたから。
すると森本はばっと顔を俺の方に向け、そして俺の指さした先を見る。
「しょ、しょうがないわね!どうせ暗闇でほづみたちなんて見えないし、つきあってあげるわよ!」
明らかにはずんだ声をあげる理香。
くそ。なんでかわからへんけど。
なんだか恥ずかしいような照れくさいような気分になった。
短いような長いような上映時間が終わって外に出ると、もうかなり暗かった。
そらそうか。
もう7時やし。
イルミネーションは夕方見たときよりもさらに見栄えが増し、
今年最後の盛り上がりやと言わんばかりに輝いている。
一足早く外に出てきて待っていた俺たちは、
さっきまで見ていた映画の話で夢中だった。
「あの回転蹴り!最高よねー!」
「それより俺は空中とび蹴りの方が・・・」
本当のことを言うと、真剣な顔をしたり、主人公と一緒に泣き笑いする森本の方が気になって、
内容の方はほぼ覚えてないけど。
「あ、出てきたわ」
「おう」
見ると、ほづみちゃんの顔は割りと平気そうで、
石塚の目じりがほんの少し赤いような気がする。
森本もそれに気づいたみたいや
「なあ・・・・・・普通逆ちゃうか?」
「いやほづみは結構淡白なのよね・・・・・・」
石塚はほづみちゃんの前で涙を見せてしまったことにかなりショックを受けたようで、
なんかふらふらしてる。
「あーあー・・・よろけとるわ」
気持ちわかるけどな。男として。
+++++
敬一はショックだった。
プリンが好物ということを知られ、
感動映画で泣いてしまい、
男として、これ以上の失態があるだろうか。いやない。
「なんか・・・わりぃ・・・」
「ん?なにが?」
「俺、なんか今日・・・全然ダメだろ・・・?」
ほづみはキョトンとして首をかしげる。
「なんで?」
「え」
今度は敬一がキョトンとする番だった。
「嬉しかったよ。新しい敬一くんの一面。いくつも見れたから」
「・・・かっこ悪いとか・・・思わなかったか?」
ほづみはんーん、と首を横に振る。
いや、むしろそこが面白いんだけどね、と内心ひそかに思いながら。
――――というかそこも好きな部分のひとつなんだけど。
そして、「敬一くんは楽しくなかったの?」と聞きかえす。
敬一の首が横に振られる。
それはない。顔には出ないが、
――――そばにいるだけで、嬉しくて。
「たのし・・・かった」
ほづみが笑顔を見せた。
足がスキップ気味になる。
小さい体がはねるのを見て、敬一は目を細めた。
「あーあ、今年は雪、降らないのかなぁ・・・」
「・・・・・・雪、好きなのか?」
「うん!すっごい好き!」
ほづみは空を見上げる。
「降ったらいいのになー」
その瞬間、ちらほらと白いものが視界に飛び込んできた。
「!」
敬一の口が驚きで少し開く。
「ゆきだー!」
ほづみが嬉しそうな声をあげる。
粉雪が地面に落ち、すぐ透明になる。
積もりはしなさそうだ。
「ほづみさん・・・嬉しいか?」
「嬉しい!!」
ほづみは敬一の方を振り返って笑った。
「じゃあ俺も嬉しい」
そして敬一も微笑んだ。
「!!」
まったく、この男は不意打ち攻撃をしかけてくるから困る。
しかもそれは天然で、無自覚だから余計始末が悪い。
だれが石塚敬一はサイボーグだと言った?
立ち止まると風の冷たさが体にしみた。
敬一が自分の上着をおずおずとほづみにかける。
驚いた顔をするほづみを見て慌ててそっぽを向き、
かなりの早口で『風邪をひくとだめだろ』、そう言って。
ほづみはかすかに頬を染めて、敬一の手に、自分の指を絡める。
その手はいつもどおり、一瞬びくっとひきつるが、すぐに優しくほづみの手を握った。
血が通っている。
それはとても温かで。
まごうことなき、ヒトの体温。
寒空の下。2人は熱を共有する。
それだけで、嬉しかった。
*****
森本が動かない。
ぼとり、と手に持っていた双眼鏡(もどき)を地面に落とした。
何をしてんねん、と言いながら俺はそれを拾ってやる。
「・・・・・・どうしたん?後つけへんのか?」
それでも動かない。
さすがにおかしいと思って、俺は森本の顔をそーっと覗き込んだ。
「・・・!?」
森本は大量の涙を、まさに漫画のように流していた。
「なっ、森本!?」
「ほづみ――・・・。ほづみが、おとなになっちゃった――――――!」
「へ!?」
「瀬尾。・・・私、なんか寂しいのよー!くやしいのよー!!」
・・・地団太を踏む勢いや。
その間に、ほづみちゃんと石塚の姿は見えなくなっていく。
森本は、じぃっとそれを見つめて、ぽそりとつぶやく。
「毎年・・・ほづみの作るケーキ食べるのが、楽しみだったのに・・・」
わかった。
俺には、わかってしまった。
毎年、このクリスマスを、
それはもう世界で一番、
ずーっと楽しみにしてきたのは・・・こいつ、なんだと。
赤と緑のチェックのスカート。
今は無意識に、森本の手によってくしゃっとシワがよっている。
こんなときに、俺は気の利いたセリフひとつでてこーへんのか。
雪がふいに強くなった。
涙を流している森本は、余計に寒くなったのか、身体をがちがちとこわばらせた。
「さ・・・っむ――・・・」
「・・・なぁ・・・」
「なによ」
上着いるか?とは続けられへんかった。
それをいともたやすくやってのけてしまった石塚と同じ行動を、
今俺がとるのってどうやねん。
「・・・・・・」
迷う。
するといきなり俺の首がしまった。
マフラーを急にひっぱられたのだ、と一瞬後に気づいた。
「もーっ、マフラー貸しなさいよっ、寒いのよー!!」
するっと毛糸の感触がなくなる。
寒い風に首がさらされて、寒い。
文句を言おうとしたけど、森本は既に自分の首にそれを巻いていて、
ちょっと幸せそうな表情になってしまったのを見ると、またもや文句は出てこーへんかった。
「・・・・・・今日だけやで」
ほんまに、今日だけ。
「なに?」
「なんもないわ」
「ねーねー偵察はもういいわよ。なんかおなかいっぱい。ごちそうさまでした。
なんかウッカリ泣いちゃって寒いしあったかいもの食べにいかない?」
森本の涙はいつのまにか止まっていた。
でもまだ鼻声で、ぐすぐす言ってるし、
なにより涙の跡が、頬に微かに残っている。
それを無性に拭ってやりたいような衝動にかられた。
(ほんま、なんやこれ・・・・・・)
感情を振り払うように頭を振った。
クリスマス効果とちゃうか。
それを不思議そうに森本が見るから。
「しゃーないな、お前が哀れやから今日は俺が奢ったるわ」
「なによそれー!」
そして歩き出す。
――なんかこいつ、今日雰囲気変なのよね。おとなしいし。
森本がじっと見るのに気づいたから、俺はなぜか森本を見れなくなってしまった。
雪がますます強くなって、足の速度はあがる。
『まったく、あんたらも大概だね・・・・・・』
ふと、そう言われた気がして振り向く。そして上を見る。
誰や?
後ろには誰もいなかった。
うわ、俺いつのまに霊感とかついたんやろ。
ありえへんありえへん。
そう思うと、ひときわ強い風が俺に直撃した。
「ケーキ今年食べ損ねちゃった・・・」
「・・・俺、こう見えても料理うまいねんで。ケーキぐらい俺が作ったろか?」
風に背中をどつかれたように、俺は言ってみる。
冗談が半分。
もう半分は、なんか、こいつが喜ぶかなーっと考えたら、
その顔が少し見てみたいと思ってしまったから。
「ほんとにっ!?じゃー約束、来年はあんたが私にケーキを作るのよ!
自慢じゃないけど私、料理は壊滅的なんだからっ!」
来年って。
来年もこうやって過ごすつもりなんか、こいつ。
でもそんなんも・・・ちょっと悪くない、と思って、
おう、と答えてしまった。
結構重症かもしれへん。
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クリスマス。
ささやかに雪は降り続ける。
担任の伊藤教師は冬休み開けの実力テストを作る手を止めて窓の外をみやり。
学校のグラウンドで自主練習中の野球部員は空を見上げ。
話の発端の噂大好き4人組はそれに気づかずミツの家でケーキをほおばる。
朝には消えてしまうだろうその雪は、
家の屋根に、映画館に、道路に。
そして最近随分暇らしい彼の墓標の上にもかすかに積もる。
一晩の雪は、確かに誰かに、消えない記憶を作った。
END
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いかがだったでしょうか?
今回は和泉視点ということで、結構意外なところをツいたぜあたしとかちょっと思ったのですが、
そうでもないですか?そうですか・・・。
ただ一言だけ言うとすれば、
理香目立ちすぎ。
そんな感じでしょうか。すみません。
では、本編やボイスドラマの方も生あったかい目で見守っていただければ幸いです。
-Fin. -

よかったな、と思った方はどうぞぽちっと押してください・・・!
お礼画面ではキャラがコントやってます。
ご感想などいただけると励みになります。
紅居 はな